「賛美歌・聖歌とは
一般名詞としては、「賛美歌」と「聖歌」は同義語である。歌集の名前としてはそれぞれ「賛美歌」と「聖歌」という題名のものが存在している。しかも異なった二つの流れで編纂されたものである。
簡単にいうと、「賛美歌」は日本基督教団という教派の独自の歌集になっている。もともとは超教派の歌集という目的で始まったではあるが。最新版は1997年の「賛美歌21」である。
「聖歌」は福音派教会の歌集の集大成であり、現在最も普及している歌集である。最新版は2002年、和田氏による編集である。
「賛美歌」の歴史
1873年 キリシタン禁制が解禁される。
- 歌集の出版が始まり、各教派が様々な歌集を発行
各教派の歌集のそれぞれの歴史を少し広げて見ます。
長老派・改革派系の賛美歌集
1881年 「賛美歌」横浜(日本基督一致教会出版)
- 1888年に会衆派の「賛美歌並楽譜」と合体して「新撰賛美歌」となる
会衆派系賛美歌集
- 関西中心にアメリカの会衆派系諸教会が伝道開始
- 1886年に日本組合教会を結成、主として都会の上中流層に信徒を獲得
1882年 「賛美歌並楽譜」大阪
- 1888年に一致教会の「賛美歌」と合体して「新撰賛美歌」となる
長老派・会衆派の共通歌集
1888 『新撰賛美歌』
- 日本組合教会(会衆派系)と日本基督一致教会(長老派系)の共作
- 両派の歌集のものを磨いて収録し、新しい翻訳と新作を追加
- オーソドックスで確固たる信仰の形で表現されている
- 文学的にも宗教的にも優れ、明治期最も重要な賛美歌集と考える人が多い
- 歌詞重視のため、英語原文より節が長いことが多い。
- 福音消化の類が少ない
メソジスト系賛美歌集
- 叙情性が強い文体
- ウエスレーの賛美歌が多い
1884年 『基督教聖歌集』発行
1895年 『基督教聖歌集』増補改定(422曲)
1901年 『基督教聖歌集』最後の改定
→1903年 共通歌集『賛美歌』を採用
バプテスト系の賛美歌集
- 大衆らしいくだけだ表現
1896年 『基督教賛美歌』出版
一度独自歌集をやめ賛美歌委員会の明治版の「賛美歌」(1903)を採用。
1958年 日本バプテスト連盟が『新生賛美歌』出版
→共通歌集を使用せず、独自の歌集を使用し、今に至る。
日本聖公会系の賛美歌
- 英国国教会系
- 1854年、同系統のアメリカ聖公会を通じて日本で伝道を開始、その後イギリスからも宣教師が来た。初期は使徒公会と呼ばれたが、1887年に日本聖公会を組織した。
- 日本語賛美歌集は他派よりもスタートが2年遅れ、また、他派が相互に賛美歌の詞をを交換していたのに対して、かなり後まで独自の訳を用いていた。かなり無理な用語は用法が目立っていた。
- ラテン語から翻訳された賛美歌が多く使われていた
1876年 『使徒公会之歌』同派初の日本語歌集出版
共通歌集の歴史
1880年 中部日本の宣教師団体が共通賛美歌集の編集をいたしたが実現せず
1900年4月 福音同盟会(大阪)で原田助の提唱により共通賛美歌の出版の議案が採択される
- 超教派の賛美歌委員会の参加教会:日本キリスト教会、日本メソジスト教会、日本組合教会、浸礼教会、基督教会(ディサイプル派)
1903年11月 五教派による賛美歌委員会が編纂した『賛美歌』が発行される
1931年 『賛美歌』第1回目の改定
- その後、アジア・太平洋戦争などの経過中に、賛美歌委員会は日本基督教団賛美歌委員会に変わり、『賛美歌』は日本基督教団の独自のものに変わる
1954年 『賛美歌』第2回目の改定
- 日本基督教団賛美歌委員会が改定、日本基督教団出版局発行
1967年 『賛美歌第二編』発行される
1997年 『賛美歌21』発行される(現行最新版)
『聖歌』の歴史
『賛美歌』とは別に、日本の福音派教会の流れを基にして生まれた。『賛美歌』編集時に福音派は編集に加わらない小さな群だった。福音派では『賛美歌』の他に福音派出版の歌集も用いられ、その発展に大きな役割を果たしたと言われている。
1895 『救世軍軍歌』発行(F.R.ライト大佐編)
1897年 『救いの歌』発行(笹尾鉄三郎編)
1901年 『福音唱歌』発行(三谷種吉編)
1909年 『リバイバル唱歌』(田中重治編)
1922年 『リワ゛イワ゛ル聖歌』(中田羽後編)
- それまでの流れを汲んで編纂された。
- その後何回も改定され『リバイバル聖歌』となる
1958年 「聖歌」(中田羽後編)
- それまでの聖歌を修正・補充し、世界の重要な聖歌を和訳などして、
- 各種の聖歌がバランスよく収録された集大成である。
- 日本の福音派を中心に広く教派を超えて普及。
- 超教派の大会では最もよく利用される歌集である。
- 「賛美歌」から原詞の問題点を解決した訳詞が約260曲収録
- 発行直後にのちの後継者の和田健治が中田氏に師事
1969年 月間「聖歌の友」創刊(和田健治発行、195号まで刊行)
- 中田氏の要請により、和田氏が自費出版
- 主筆:中田羽後、編集・発行:和田健治、発行所:教会音楽研究会・聖歌の友社
- 目的:「聖歌」の普及、福音主義・超教派による聖歌研究、出版と講習、新時代の「聖歌」の編集準備
1971年 教会音楽全国講習会開始(毎年夏開催)
- 理論と実技を行う
- 全国ほぼ全ての教派から多くの指導者と講習生が参加
1972年 『青年聖歌』発行(聖歌の友社発行、和田健治編集)
- 『聖歌』発行後の中田氏及び関係者の重要な聖歌作品を収録
- その後改定して「聖歌集」と改名
- のちに、『聖歌』2002年版に大半の曲が加えられる。
1974年 中田氏逝去
- 中田氏が遺言書で「聖歌の友」の主筆を和田健治に移す
- 葬儀主催者が中田氏の著作物を後世まで伝える使命を聖歌の友社に託す公約文書を配布
1992 「教会音楽研究会」が「日本教会音楽研究会」に改名
2002年 福音系歌集の集大成としいて『聖歌(総合版)』発行
- 全818曲
- 旧『聖歌』674曲から638曲収録
- 追加の180曲は『青年聖歌』、『こどもせいか』と『リバイバル聖歌』などから収録
参考書籍
- 聖歌の友社『聖歌総合版』PP984-987
- 日本キリスト教団出版局『新版賛美歌その歴史と背景』PP192-235